真夜中に、ふと目が覚めた。 部屋はもちろん真っ暗で、何もみえない。適当に手探りで携帯を引き寄せて、時間を確認しようと携帯を開けば、液晶の光が目に突き刺さった。何とか確認した時刻は、午前3時。


(もったいない・・・)


なんて心の中で目覚めたことに文句を垂れながら、ため息をひとつ。ちらりと横をみれば、こちらのことなんて何にも知らずにすやすやと眠る兵助がいる。また、ため息をひとつ。しかし、どこかあどけないその寝顔に、自然と頬が緩んだ。


(久々に兵助の寝顔見たなぁ)


くすくす、と静かに笑って、そっと兵助の前髪を撫でた。それは相変わらずの手触りのいい猫っ毛で、男の癖にずるいなぁと思ってしまう。その心地いい感触を感じていると、ふと"昔"の記憶を思い出した。


兵助、へいすけ・・・ねえ、兵助・・。
寝ちゃ、だめなんだよ。寒いから、かぜ、ひいちゃうよ?ねえ。
へいすけ、寒いよ。ねえ、へい、すけ。・・・ねえ、ねえ。



私は軽く頭を振って、"昔"の記憶をかき消した。そして、自嘲した。もう、戦はない。少なくとも、私や兵助の手の届く場所にはないのに、なのに。私はゆっくりと兵助の前髪から手を放して、兵助を起こさないように慎重にベッドから降りた。そして、閉じられたカーテンを静かに開きながら、前世の記憶とは煩わしいものだなあ、とため息をひとつ。開かれたカーテンの向こうには、"昔"より翳んでしまった夜空がそこにはあった。また、"昔"を思い出す。


へいすけ、星がきれいだよ・・・ねえ。
ねえ、みて?ほら、きらきらしてるんだよ。
ねえ、兵助?ねえ、・・・ねえ、へいすけ、返事してよ・・・。



"昔"の記憶をかき消すために、ぎゅっと目蓋を閉じて、ゆっくりと開く。このまま目を開いたら"昔"に戻ってしまったり、なんて嫌なことを想像したが、やはり私の目の前には翳んだ夜空が先ほどと何もかわらず存在した。その事実に安堵する自分へ、自嘲混じりのため息をひとつ。


・・・・・ひとりに、しないで


ぶるり、と今更ながら寒さを感じ、私はカーテンを閉めることなくそそくさとベッドに戻った。兵助は相変わらずすやすやと眠っていて、その寝顔にまた頬が緩む。私は何事も無かったように静かにベッドに潜ると、眠る兵助の胸へそっと耳を当てた。そこから、とくん、とくんと、規則正しく聴こえる心音と、心地よい体温が伝わってきて、私は少しだけ泣きたくなった。


(もう、寝てしまおう。)


そのまま心地よい心音と体温を感じながら、私はもう一度開かれたカーテンの向こうを見れば、そこはやっぱり翳んでしまった夜空があった。そのなかにあるやっぱり翳んでしまった星を見ながら、ぽつりと呟いた。


「ねえ、今度は、独りにしないでね。」


そう呟いた瞬間、私の言葉に返事するように翳んだ星の中から、1つの星がキラッと瞬いて落っこちていった。私はそのタイミングのよさに目を開いて、しばし停止。すると、急に視界が暗くなって、次はなんだと肩を竦めた。


「大丈夫だよ。」


ぽつり、と声が落ちてきた。私はまさか、と思いさらに大きく目を見開いた。でも確認しようにも視界は真っ暗で、何も見えない。


「・・・へ、へいすけ?」
「大丈夫。絶対、大丈夫。」
「・・・うん。」
「約束する」
「うん」



私は、心の中でそっとあの流れ星にありがとうを言った。ありがとう、ありがとう。 届くかは分らないけど、たくさんありがとうと言った。そして、こっそりと兵助にも、ありがとうと言った。


「ほら、もう寝るぞ」
「ねえ、兵助」
「なに?」
「すき」
「昔からしってる」
「うん。昔からしってた。」
「はいはい。・・・おやすみ、
「おやすみ、兵助」



私は、もう一度心の中でこっそりとありがとうを言って、真っ暗な視界の中でゆっくりと目蓋を下ろした。











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